結婚97

 「結婚するって、本当ですか」第97話「お母さんと、話ができますか?」の感想を。

 前回、普段とは料理担当を入れ替えて拓也の代わりに台所に立った莉香さん。拓也の協力を得ながら鍋を作り、二人で美味しくいただくのでした。そんな中、花形に切られたにんじんを見て―――莉香さんは母・律さんのことを思い出します。

 にんじんを花びらの形に切る、というそれだけのことですが。
 でもそのひと手間に……かつて自分に贈られていた母の思いを感じ取るのでした。

 その思いに自分は何も返せていない、そう感じた莉香さんは、もう一度きちんと母・律さんと向き合うことを決断します。





莉香
「母が…全然捕まりません。」


 しかし。

 莉香さんは律さんにLINEで連絡を取りますが、中々予定が合いません。話があって―――食事でもどうですか―――そんなふうに切り込んでも、「パリにいる」「ロスにいる」「北海道にいる」という返答ばかり。
 律さんは仕事柄、普段から色々な地域を飛んで回っているんですけど、それにしても捕まりません。莉香さんいわく「初めて私から母を誘った」ということで、拓也は逆にそれが理由で捕まらないんじゃないか……と推察します。大事な話になりそうだから避けられているのだと。

 たとえ母娘であっても。
 なんでも話し合えるわけでもなければ、なんでも向き合えるわけではなくて―――。



(…リカさんがこんなに誘ってくるなんて。)
(ただならぬ雰囲気を感じる…)


 実際のところ、本当に律さんは莉香さんの誘いの返事を避けていました。北海道や国外にいて忙しくて~なんてLINEでは言ってましたけど、バリバリ東京にいますね。会おうと思えば会うことはできるはずです。でもそれをしないでいる。それはやはり拓也の読み通り、莉香さんが『大事な話』をしようとしている予感が伝わっているからですね。

 お母さん、私、結婚して阿蘇に行きます。

 ……律さんは莉香さんからこう報告されるんじゃないか、と危惧していました。厳密にはそこまでの話は拓也・莉香間でも決定していないんですけど、拓也と結婚するということの“きちんとした報告”になるということには違いありません。直接阿蘇に行く話が出なかったとしても、両家顔合わせの時に莉香さんからその話が出ていた場に律さんもいたので、結婚を認める=莉香さんが阿蘇に行くことを認める、ということに実質的になるでしょう。

 もちろん、律さんも莉香さんの人生を邪魔したいわけではありません。人は可能性に満ちている、という言葉は以前に律さんが拓也をコーディネートした時にも出ていた言葉で、律さんの基本的なスタンスはこれです。可能性の肯定。選択肢の拡充。そのうえで最も豊かな道を選ぶ。拓也への言葉からは律さんのそうしたコーディネーター精神が見え隠れしていました。
 そんな律さんにとって、『娘の結婚を反対する』というのは自分のアイデンティティに反する行動です。律さん自身もそれは重々分かっています。分かってる……けど……分かりたくない!だからこそ莉香さんの大事そうな報告に付き合い真っ向から反論するのではなく、ずっとのらりくらりと逃げているんですね。

 直接会って話したら、どうなるか分からないから。
 もしかしたら流れで賛成してしまうかもしれない。
 もしかしたら流れで反対してしまうかもしれない。
 今は、そのどちらにもなってほしくない―――。

 言うなれば「母としての自分」と「一人の大人としての自分」が拮抗しているんですね。母として娘を庇護したい自分と、大人として背中を押したい自分。律さんはそんな二人の自分に押しつぶされ、立つべきポジションが分からないでいます。だから会うことができないのです。



 それは……律さんらしくない“弱さ”ですね。
 大人としては強く在れても、母親としてはと強く在ることができない。これはそんな律さんの弱さが原因で招かれた事態ですよ。でも、だからこそ、拓也と莉香さんにはどうすることでもきず……。特に莉香さんは悶々とした日々を過ごすことになるのでした。

莉香
「母とちゃんと話をしたいです。」
「会ってくれれば、ですけど…」


 落ち込む莉香さんを見て、拓也は考えます。
 自分に何かできることはあるだろうかと。





 そんな日々が過ぎていく中で。

 拓也は権田&佳祐と、莉香さんはナオ&小宮さんと、それぞれ仕事終わりに集まって遊んでいました。権田はどうやらあの後カオリーと順調みたいで、結婚などの具体的な話は出ていませんけど、一緒に推しのライブに行ったり楽しんでいるみたいです。よかったよかった……。ナオも久しぶりの登場になりましたが、ガラス細工の修業は順調に進んでいるようで、腕を磨きながらイベントに展示したりしているとのこと。

 それぞれ別で飲んでいましたが、ばったり会ったので合流することに。

夏海
「大原さんの幼なじみのナオさんです!」
ナオ
「はじめましてー!!」


 そういえば、原作では今回初めてナオが権田と佳祐と出会います。ドラマ版では東京に来てすぐの頃に錦糸町支店メンバーでの飲みに誘われてナオが顔見知りになっていましたけど、漫画版では100話を目前にして初遭遇という展開に。

 そこで、小宮さん伝いで拓也もナオの現状を知るのでした。イベント用に作った大きいお皿の写真を見て、ナオも頑張ってるんだ―――と感慨に浸ります。東京に来たのも季節が飛ぶ前の夏ごろの話ですから、もう半年くらい経ってますからね。きっと以前よりもかなり腕は上がっているはずでしょう。そんなナオの成長は、幼なじみの拓也にとってはすごく喜ばしいことのようです。

ナオ
「買ってくれる人が少ないんですよ。」
「作家もののガラスは…市場が狭いんですよね―――」


 そんなナオが吐露した悩み。
 ガラスを上手く作れたとしても、そこがゴールではない。仕事としてやっていく以上、それを誰かに買ってもらわなければならないわけで……ナオは特にそこに苦戦しているようです。具体的にどんな感じなのかはちょっと想像がつかないんですけど、いわゆる『営業』をしていかないといけないようで。良いものを作れば自然と買い手が付く、なんてのは幻想の話。ビジネスとしての肝はやはりそこにあるようです。



 そんな話を聞いて。
 拓也は―――ひとつの発想に至っているのでした。


拓也
(そうだ、これは…)
(いい考えかもしれない。)
(一石二鳥のアイデアだ!!)


 拓也の脳裏に浮かんでいたこと。
 拓也が脳裏に浮かべていた人。
 それは……莉香さんの母・律さんでした。

拓也
「ナオのガラス、売ってくれる人がいるよ!」

「律さんって言うんだ!!」


 拓也のアイデアがいかなるものなのか……というのは具体的な説明は次回になりそうですけど、とにかくプロデュース力のある律さんに依頼をしてナオのガラスを売ってもらおう、という考えのようです。そのうえで「一石二鳥」とあるので、そこから生まれた律さんとの繋がりをきっかけに莉香さんとも話をしてもらう―――というような感じでしょうか。例えばガラスの話を持ち掛けて、実際にナオと会う時に莉香さんを同行させる、みたいな。

 ちょっと強引な手口にはなるかもしれませんけど、そうでもしないと律さんはずっと捕まらないですからね。妻となる莉香さんのためにも、ここは拓也が強気な手段に出る流れになりそうです。律さんのコーディネートを直接その身で浴びた拓也だからこそ思いつく案ですね。上手く行けばナオのガラスも売れるし、莉香さんも律さんと話ができる……そんな一石二鳥を拓也は目指しているのかな、と感じました。詳細は次回明らかになりそうなので、拓也の“アイデア”がどんなものになるのかが楽しみですね。

 ドラマ版では分かりやすく莉香さんの恋のライバルとして登場したナオ。拓也の元カノという設定も生まれ、原作よりもクッキリとしたラインのあるキャラクターになっていたと思います。原作漫画のナオはそうした要素はなく、拓也と莉香さんの共通の知り合いという具合のポジションにいましたが―――ここに来て、彼女に新たなキャラクターとしての立場が与えられそうです。

 JTC錦糸町支店のメンバーというわけでもなく、大原家の親戚というわけでもなく、ちょっと浮いたポジションにいたナオ。そんな彼女だからこそ律さんの懐に入り込むジョーカー=切り札になるというのは面白いですね。



 果たして、律さんの固く閉ざされた扉を開けることはできるんでしょうか。
 次回、拓也のアイデアが炸裂……する?
 続く!





今週の気になるポイント


 今回、最後に拓也が驚きのアイデアを出すシーンがヒキでしたが……よく見ると小宮さんが凄い顔をしてるのが面白いですね。柱の文章にも「どうなる小宮…!?」とありますし、どうやら小宮さんに新たな受難が訪れることにもなりそうです。

 謎の無言電話をしたり、律さんに二人の件を報告したりしているのも小宮さんで。ドラマ版では終盤でそれを拓也に告げるシーンはあるんですけど、原作漫画だと小宮さんは自分と律さんが繋がっていることを二人に話してないんですよね。物語の舞台はちょっと前に夏から冬に移り変わりましたが、この感じだとまだ小宮さんはそれを説明してはいないみたいです。

 しかし、何もそんなに驚いた顔をしなくても!と思いますけどね。小宮さんは実家の醤油屋が律さんのおかげで繁盛するようになった過去があるので、律さんの腕が確かなのは重々承知のはず。拓也が言い出したことは確かにビックリすることではありますけど、ある意味では最適解な部分もあるわけで……あれだけ小宮さんが驚いているのにはまた何か別の理由がありそうです。

 律さんから小宮さんへの話もどんな感じなんでしょうかね。両家顔合わせの時の話を律さんは小宮さんに相談したりしてるんでしょうか。89話から物語が夏から冬に飛んだ影響で色々とブラックボックスになっている部分も多いので、律さんと小宮さん周りのアレコレも次回明らかになったら嬉しいですね。